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HATTORI食育クラブ 食育通信No.53

対談

本来の「食」を取り戻すためのオーガニック(有機)の広まりを目指して
映画『100年ごはん』上映会後のトークライブより

映画家・料理家
大林千茱萸

マクロビオティックコーチ
西邨マユミ

服部栄養専門学校
校長/医学博士/健康大使
服部幸應
「HATTORI 食育クラブ」は、一緒に食育を学び食育活動を実践しようという皆さんの集まりです。食品メーカーや飲食店がメンバーの大半ですが、最近は、農業生産者や地方自治体、新聞社など幅広い業種の新しい仲間が増えてきました。今回のゲストは、映画監督で料理家の大林千茱萸さんと、マクロビオティックの伝道師西邨マユミさんです。

「食」を雑に無駄にしている日本に有機農業を

服部
今日『100年ごはん』を観せていただきましたが、「素晴らしい映画を作っていただいた」というのが第一印象です。持続可能な社会を作っていくためには、化学農法から有機農業へ切り換えていくべきですが、日本全体に広げていくきっかけにしたいですね。
大林
ありがとうございます。日本では自然の恵みを大切にする姿勢や考え方が、高度経済成長期の後の数十年で置き去りにされた気がしています。その結果、食糧廃棄物世界一という汚名を着ることになってしまった。日本人本来の、先人の知恵を無駄にせず未来へバトンを渡すことを守るうえで今が正念場だと思っているんです。
西邨
私はマクロビオティック=左下のメモ参照=をアメリカで指導していますが、基本にある考え方は「もったいない」なんですね。たとえば野菜には捨てるところがない、という認識です。日本にはもったいない文化が根づいていると思って帰ってきたら、そうではなく、危機感を覚えました。この映画で有機農業を広める取り組みを知り、素晴らしいと思ったし、有機農業の浸透と同時に日本のもったいない文化を伝え残していけたらいいですね。
大林
モノを大切にしなくなったことが、食にも通じている気がします。昔は何でも直して使いましたが、今は家電も洋服もすぐに買い替える。10のうち1しか壊れていなくても9を捨てて、10の新品を買います。いつからこうなってしまったのか、そういう安易さに疑問を感じますね。
服部
そうですね、結局、手間をかけたくなくなっている。料理もそう。手間をかけないとおいしくないんですが、手間をかけるって面倒くさいですよね。使い捨てが浸透してしまいましたが、日本にはまだそれを引き戻す力があると思います。昔はどの家庭でもちゃぶ台を囲んで食事のときに挨拶や箸の持ち方、食べ方、姿勢というものをしつけられた。つまり食育があった。みっともない食べ方をしない、きれいに残さず食べる、そういう食育が必要です。日本は年に1億トンの食糧を使い、そのうち約2千万トンが廃棄されます。安全・安心・健康という観点からも有機農業を広めない限り、日本の食は変わっていかないと思います。

国際的に遅れている日本の有機農業に本気の姿勢が欲しい

服部
今年リオデジャネイロでオリンピックが開催され4年後には東京にきます。私はロンドンオリンピックから仕事で関わっていますが、選手村の食事は、実は有機農業で栽培されたものしか使ってはいけないと決まったんです。リオでもそう決まりました。日本の選手村がどうするか決めるのは来年です。
大林
そんなにのんびりしていて間に合うんでしょうか。早くしなければいけませんね、作物はすぐにできるわけではなく、土からつくらないといけませんし。
服部
そうなんです。関連機関に行って話をしましたが、感覚そのものがまだ遅れています。世界の感覚からいうと当たり前になっているけれど、日本の有機農業の割合って0・4%に過ぎないんですよ。世界レベルでいうとヨーロッパ、特にドイツが進んでいます。南米ではブラジルが世界一ですね。
大林
西邨さんがマドンナのパーソナルシェフを務め世界のセレブリティに食事を提供したことでマクロビオティックが注目されましたが、日本に比べ世界では有機農業、オーガニックへの感度というものが高い気がします。西邨さんからマクロビオティックの話を聞いて一番面白かったのは宗教に関係なくみんなが同じ食卓につけるということ、なるほどと思いました。
西邨
そうですね。マクロビオティックは非常にユニバーサルなものですからね。
大林
日本ではまだオーガニックなものや考え方に対して遅れているというか、目が向いていないので、映画を観ることで0.4%以外の99.6%の方たちにその素晴らしさを知ってほしいという思いもあります。
西邨
先ほど服部先生がおっしゃったように、手を抜いたらおいしいものはできませんが、それは土づくりから始まっていると思うんですね。無農薬における微生物群の多様性を理解すれば農薬などを入れることはできないし、そこから栽培されたものに化学調味料は必要なくなるんです。
大林
オーガニックは安心安全だけど高い……という認識が根強いですが、例えば有機キャベツ1個が千円するわけじゃない。喫茶店のコーヒーを1杯控えるだけで、浮いたお金で買える値段です。人は食べるために働くのに、いつしか働くために食べることがおろそかになってしまった。優先順位がおかしくなっている。オーガニック食品は食べれば凄さが分かる。理屈じゃない。頭ではなく体がおいしいと喜ぶ。食物本来の力を感じて欲しいですね。
服部
レトルト食品やコンビニを悪く言いたくはないのですが、日本は世界一料理のできないお母さんを育てている国です。添加物と化学調味料がおふくろの味になってしまっている。外国では天然もの、自家製ものの食を提供する動きがどんどん広がっています。日本もどれだけの人が本気になって取り組んでいくかだと思っています。

新しい農業の在り方と、支援する農政策に期待

大林
有機農業のまちづくりを推進する大分県臼杵市の取り組みも5年前は異端児的でしたが、今はモデルケースになっています。時間はかかるかも知れませんが、99.6%の方たちが有機農業へ転換してもらえるような動きを作っていきたいですね。
西邨
映画の上映会イベントにも多くの方が集まっているようなので、その方々でネットワークができると素晴らしい。思いを強く持った人が時代を動かしていくので、まずはオリンピックの選手村での提供をシンボルとして、それで終わらない状況を作っていくことが大切ですね。
服部
今のままだと、世界中から日本では農薬まみれのものを食べていると笑われますよ。ある大手食品メーカーの社長さんと話をしたときに、これから100年先を考えると安心安全健康なものでないといけないと言ってくれました。今まで添加物が入っていた食品を扱っていた大企業のトップもそういう考えに変わってきています。そういう考えや動きがあちこちで出てくることを期待したい。
大林
実感として言うと、私たちの食卓を支えているのは70歳以上の農家の方たちです。それを考えると日本の食はどうなるのか不安や危機感はありますよね。
西邨
アメリカでは農業施策は実はしっかりとしていて、若い人が有機農業をはじめるサポートや体制が整っているんですよね。
大林
日本でも、若い世代で有機農業に取り組んで、本来の食のあるべき姿を次世代につないでいきたいと考えている人が出てきています。
服部
世界で農業に携わっている人の平均は30代から40代です。日本は60代以上が中心になっている。1960年代に2400万人以上いた農家が今や230万人になってしまったんです。これからぜひ日本の農業の力を復活させていくために、若い人が魅力を感じる農政策をお願いしたいですね。

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