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HATTORI食育クラブ 服部幸應コラムNo.18

チーズな醍醐味

食事の醍醐味とは何でしょうか。
おいしいと思うときに誰かと共感できる。そんな瞬間にも感じませんか。

ホームパーティーなどで手軽に食べられるピッツァは、それぞれが好きにとって食べるものですが、みんなと一緒に食べているという楽しさを感じるものです。切り分けられた1ピースをとると、カリカリ、ふわふわとした生地、粉のてざわり、とろっと流れるあつあつのチーズに食欲をそそられます。今回はチーズのお話です。

チーズの発祥は中近東であるという説が有力で、紀元前4000年ごろにはシュメール人がつくっていたといわれています。
そして紀元前2000年ごろのものといわれる、チーズにまつわるアラビア民話があります。
砂漠を旅していたアラビアの商人が、ヒツジの胃袋でつくられた水筒にヤギの乳をいれてラクダの背に積んでいました。乳を飲もうとすると透明な水と白いかたまりがでてきたので食べてみると、かつてないおいしさでした、という内容です。
胃袋の中のレンニンという酵素で乳がかたまり、ラクダのゆれと砂漠の太陽で脱水するという工程は、乳にレンネットや酸を添加して時間をおき凝集させるという、現代のチーズづくりにも使われる原理です。

中近東からギリシャにチーズが伝わると、中央・南アジアから東へ、またヨーロッパ各地へとひろがりました。
遊牧民族だったモンゴル族は低脂肪高たんぱくの硬質チーズをうみだし、チーズはインド、中国などのアジアに伝わります。
一方、紀元前1000年ごろにチーズが北イタリアに伝わると、地域ごとに品質も安定し、保存食としても広くつくられるようになりました。
紀元前800年ごろのギリシャの吟遊詩人ホメーロスの作品であるといわれる叙事詩「オデュッセイアー」には、単眼の巨人がヤギやヒツジを飼い、洞窟の中で乳をしぼり、この乳を固めてチーズを作ったとあります。たくさんのチーズがある洞窟に閉じ込められた主人公のオデュッセウスは手持ちのワインを巨人にふるまい、酔って眠っているすきに逃げるというエピソードであり、当時からチーズとワインの相性の良さが人々に知られていたようです。
チーズは保存性や栄養価の高さから重宝されていたことは想像にかたくなく、庶民のあいだでもさかんにつくられるようになりました。ヨーロッパでは現在から100年ほど前まで、チーズづくりは主婦の仕事であったそうです。フランスのカマンベール、イギリスのブルーチーズであるスチルトン、デンマークのチーズハヴァティーなどは主婦がつくりだしたチーズです。

現代、ナチュラルチーズは世界中で1000種類を超すといわれ、硬さによって「軟質チーズ」「硬質チーズ」「超硬質チーズ」に、熟成方法によって「非熟成」「カビ熟成」「表面洗浄・細菌熟成」「カビ熟成・細菌熟成」「細菌熟成」にわけられます。さっぱりとしたフレッシュチーズから濃厚なうまみの熟成チーズまで、万人向けのやさしい味から好きな人にはたまらない刺激の強い味まで、流れるようにやわらかいものから削れるほど硬いものまでと多種多様です。パン、米、野菜、肉、魚、ワインなどあらゆる食材との相性が良く、独特の風味づけとうまみによって料理の発展をうながしたようです。
また、体内の乳糖を分解する酵素が少ないために牛乳を飲むとおなかが痛くなる乳糖不耐症をもつ人でも、チーズでは乳糖が発酵によって分解された状態なので食べやすくなっていることが、多くの人に受けいれられる要因のひとつかもしれません。

さて、物事の本当のおもしろさや最高の味わいをあらわす「醍醐味」ということばの由来をご存知でしょうか。
醍醐は古代において濃厚で甘美な乳製品であったとされます。乳、酪、生蘇(しょうそ)、熟蘇(じゅくそ)を経て、最上のものである醍醐ができると仏典にあり、奈良時代の遺跡から朝廷に蘇が献上されたという木筒も発見されています。
平安時代に醍醐天皇によって編纂された延喜式には、蘇のつくりかたが示されています。蘇はモンゴルのチーズに近い乳製品であり、醍醐は蘇をさらに加工したものだといわれています。

チーズは各国多様な味ながら世界共通で愛され続けているようです。ピースは個々に食べながらもみんなで楽しめるピッツァのように、多くの人々と喜びをわかちあうことが、食べることの醍醐味ではないでしょうか。

ドルチェとティラミスの誕生

イタリアンドルチェの種類は、チーズベース、アーモンドベース、生クリームベース等にわかれており、いずれも素材を活かしているのが特徴です。イタリアンドルチェの多くは14?16世紀ごろのルネサンス期に発展したもので、この頃、各地にパスティッチェリア(菓子専門店)ができ、土地ごとに特色あるドルチェが誕生したといわれています。

ティラミスの誕生は1960年頃のヴェネツィア地方の安い宿といわれ、くたびれた男ががんばらなくちゃと宿の主人に精力のつく食べ物を注文し、即席に作ったのが元祖とされています。「ティラミス」はイタリア語で「わたしを元気にして」という意味があるのです。

現在もティラミスは、卵やマスカルポーネ、砂糖などを‘とろり’とあわせ・・・、デザートエスプレッソの風味を浸したスポンジ生地の上に‘ふんわり’とのせて・・・上にココアパウダーをたっぷりふるう・・・、甘味と苦味、コクのおりなすおいしいドルチェとして親しまれています。

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