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HATTORI食育クラブ 服部幸應コラムNo.29

玄米、ハリウッド進出

2009年某日。俳優のトム・クルーズが器用に箸を使って玄米ごはんを食べ、 すっかり慣れた様子で「おいしい」と一言。あるテレビ番組のワンシーンです。 歌手のマドンナもまた、日本の伝統食を生活に取りいれているといいます。
日本人である私たちは、どことなく誇りかに思い、どことなく反省をして、 日本の食の良さを思い出させられます。

トム・クルーズが玄米ごはんを好むにいたる発端は、100年ほど前にさかのぼります。

19世紀、東京は市ヶ谷の、ある診療所。
たずねてきた患者の顔を見るだけで、生まれた地、生まれた月、体質、食べているものを言い当てた医者がいました。 彼は患者に食べると良いものを的確に、ユーモアを交えてアドバイスし、診療所はいつもにぎわっていたそうです。
医者は、初めて「食育」という言葉を使ったといわれる陸軍薬剤官、石塚左玄(いしづかさげん、1851?1909)。
時は文明開化のまっただ中、いそいで西洋化しようとする日本。 左玄は東洋医学はもちろん西洋医学も学んでおり、 その上で、日本にあうかを検討せず西洋の食文化を導入することに危機感を覚えます。

左玄は栄養学がまだ確立していないころに、食と健康の関わりや東洋の思想を、西洋の科学的な言葉を使って表現しています。
彼は当時軽視されがちだったミネラルに注目しました。 海のものや動物性食品に多いナトリウムと、山のものや植物性食品に多いカリウムのバランスが大切だという理論です。 日本は島国であり、ナトリウムを多くとりがちでカリウムが少ないので、米を中心に野菜を食べる日本の伝統食があっています。 ヨーロッパのように涼しく、米や魚を食べない国々とは違い、肉を食べすぎてはいけません。 左玄は「身土不二」を科学的にしめし、西洋の食をそのまま取りいれると健康に良くないと予言しているのです。
左玄はまた、歯の形や本数から人間は穀食動物であるとして、玄米を食べることをすすめています。 白米食がすすむ中、消化の良さだけで食べものを選ぶのではなく、 科学的にみて栄養をきちんととり、健康になって気持良く過ごすことが重要であると「一物全体」の大切さも語っています。

1910年ごろ、桜沢如一(さくらざわゆきかず、1893?1966)が左玄の食養生に出会い、実践することで病気を克服しました。
彼は左玄のナトリウムとカリウムのバランス論を東洋の思想である「陰陽」に置きかえ、ミネラルだけでなく食全体、体全体、環境全体のバランスをみる方法を考えました。 交感神経=陽、副交感神経=陰としてバランスを保っている、自律神経の陰陽が例にあげられます。
やがて彼の思想は物事の見かた、考えかた、生きかたの指南となり、いのちそのものである食はその基本、入り口であるという壮大な理論となりました。 桜沢は1929年に日本を飛び出してパリに腰をすえ、この理論を科学的に、実践的にしめして世界に広めようと努めました。

この桜沢の理論がマクロビオティックです。 1977年にアメリカで発表された、日本の伝統食が理想的だとするマクガバンレポートの後押しもあり、世界に広く知られるようになりました。 トム・クルーズやマドンナが実践し、現在逆輸入のような形で日本でも人気が高まっています。 玄米などのホールフードを食べ、動物性食品をとらないといったルールがありますが、 「なんとなくマクロビ」「なんちゃってマクロビ」といったように、気軽に多くの人が食生活に取りいれています。

日本は「むすびの国」であるといいます。土地や食べるものが違えば、文化や考えかたが違って当然。 和を重んじる日本人は、異質なもの同士をむすぶ可能性を持っています。 いち早く東洋を西洋の言葉で表現した石塚左玄や桜沢如一の思想はまさしく日本の国土が生んだものであり、世界の多くの人々を食を通じてむすびました。

日本に誇りを持ち、何ごとも取りいれていく柔軟さを、「むすび」としていきたいものです。

玄米は安心・安全に!

米をまるごと食べる玄米は、完全食と言われるほど栄養のある食べものです。 玄米100%は苦手という方は、30?50%の玄米を白米に混ぜると食べやすくなります。

まるごと食べるということは、安心・安全な食べものであることが大切。農薬や化学肥料、 動物性の堆肥を使用せずに作られたお米が理想的です。
動物性の堆肥を使うと作物は早く成長しますが、土や地下水を汚しがちで、苦味が増すなど食味にも影響するようです。 そこで、おから、紅茶、コーヒーのしぼりかすなどを堆肥とした循環型の農業も実践されています。
持続可能な社会が目指されている今、土などの環境を大事にしている生産者が増えています。 土にはたくさんの微生物が住み、バランスが保たれることで良い作物を作り、循環を生みます。

有機栽培、自然栽培の作物は値段も張りますが、それだけの価値があるものに投資をすることは大切なことです。 安心・安全な玄米を食べる「玄米デー」を、一週間に一回でも設けてみてはいかがでしょうか。

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