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HATTORI食育クラブ 服部幸應コラムNo.23

ツールかくかたりき

今年もお米のおいしい季節が到来しました。
あつあつのごはんの甘い香り、手になじむお茶碗、唇にあたる木の箸の感触すべてをあわせて「お米はおいしい」と感じるものです。
「お米は八十八の手間ひまをかけて作られるのだから、一粒も残してはいけない」というお茶碗をきれいにするような言葉を、みなさん一度は耳にしたことがあるかと思います。
米という字は分解すると八十八になります。それだけ人の手がかかり、技術や経験、愛情をそそいで作られていることに感謝をしながら食べなさいというしつけのひとつです。

米をおいしく炊く道具はやはりかまどではないでしょうか。
「民の家からかまどの煙が上がらないのは貧しいからだ」と、難波の都から村を眺めた仁徳天皇は三年間の租税を免じたという逸話が残っています。古代からすでに米を炊くかまどは生活の必需品だったようです。
かまどにひっかけるために羽のついた釜を羽釜といいます。羽を釜の上部につけてすっぽりとかまどにはめた方が効率よく熱を通すのですが、たいてい羽は真中に位置し、下半分のみを加熱する形をとっています。炊飯の最後は水蒸気の熱によって全体をうまく加熱するために蒸らしますが、羽の位置は水蒸気がこもるスペースを確保するための知恵なのです。またかまどや木のふたの保温性なども合理的で、自動炊飯器は羽釜をモデルにつくられています。

料理をおいしくするには道具選びも大切な要素であるといえます。また道具から、世界各国の料理や文化が見えてきます。

シチューやカレーなどの煮込み料理はとろっとまろやかであるほどおいしいものですが、西洋料理によく使われる寸胴鍋の、油と水をなじませる作用がポイントになります。
水が沸くと気泡がたくさん出ますが、気泡が水中でつぶれると高周波を生じ、そのエネルギーによって乳化が促進されます。寸胴鍋のように深い鍋ほど水圧がかかって気泡がつぶれやすく、また水の量が多いほど表れる気泡の量も多くなるので、より成分がなじみやすくなります。煮込み料理をたくさん作るとおいしい理由はここにあるのでしょう。

またずっしりと重たい、赤く光る銅鍋はフランス料理には欠かせない道具です。
肉料理では肉を焼いてうま味を固め、しみ出た脂や肉汁をもとにソースを作り、焼いた肉と一緒に提供します。料理の完成形は一物全体的であり、本当のおいしさをあますことなく楽しむことになります。銅鍋は熱伝導が良く、食材全体に平等に火が通るため弱火で調理することができ、焦げつきにくいので料理のキーとなるソースをじっくりと作るときに活躍するのです。

中国料理の片手でダイナミックに振る動作は、銅鍋では重たくてかないません。強い火力で材料にさっと火を通し、素材のおいしさを引き立てる料理法には鉄鍋があっているのです。
鉄の中華鍋のカーブにそって4万キロカロリーもの熱がうまくまわり、鍋の中全体の温度を高めて効率よく素材に火を通すことができます。鉄鍋は使うほどに油なじみが良くなるので、末永く使われているものがおいしさの秘訣となります。

そして、日本では「武士の刀」になぞらえられる「料理人の庖丁」は、料理にとって大事な道具のひとつです。
チョップするために使われる両刃の洋庖丁に対し、片刃の和庖丁は切れ味の鋭いものです。同じ生魚を調理するにも、マリネするには切り口が粗い方が味がよくなじみ、刺身を作るにはスッと引くだけで切り、ドリップがないようにすることが肝心です。日本料理では食材によって庖丁が多様に特化し、ふぐ、はも、マグロ、そばなど専用のものがあることはよく知られています。
また刃物の特徴はカトラリーにも影響を与えています。西洋では切れにくく安全性の高いナイフが使われ、日本ではよく切れる刃物により削りだされた木の箸が唯一のカトラリーとして根づきました。

道具はその土地の文化や歴史、生活を教えてくれるものです。そして知恵と伝統を脈々と守り続けてくれる人々の技術と心が、今現在の食文化を支えてくれています。
一粒の米をも残さず食べるように道具を大事に使い続けることは、道具そのものに、歴史に、作りだす人に敬意を持つことであり、よりいっそう良い仕事を創造することになるでしょう。

仁徳天皇陵と庖丁

食いだおれの町大阪。となりの堺市は料理には欠かせない庖丁の産地であり、ルーツは古墳時代にさかのぼります。

先日世界遺産候補となった仁徳天皇陵は、考古学者の研究によると土運びだけで1日1000人を動員して、18年近くもかかるといわれる壮大な建設物です。

建設には鋤や鍬などの道具がかかせず、全国から優秀な鍛冶工人が集められました。そして現在の堺市、かつては百舌鳥野とよばれた稜の付近に住みつき、農具や日本刀、庖丁などの鉄製造を発展させたのです。

以来長い長い時をかけて洗練された技術は、現代もおいしい料理を、文化を支えてくれています。

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