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食育通信対談
No.36
おいしいオーガニック革命
大地を守る野菜で、人をつなぐ
藤田 和芳
株式会社大地を守る会
代表取締役社長(写真左)
加藤 登紀子
歌手(写真中央)
服部 幸應
服部栄養専門学校 校長/医学博士
(写真右)
藤田
大地を守る会は、農薬をできるだけ使わない農産物や加工食品を、会員制で宅配するサービスを行っています。どんな食材を扱っているのか、どんな会であるのかは、食べていただくのが一番わかりやすいだろうと、日本料理店の山藤を開きました。
また、地方にいる農家さんが、自分の野菜を一流のシェフが料理し、東京のお客さんがおいしく召し上がっていることを知り、誇りと自信につなげてもらっています。
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服部
35周年とはすばらしいですね。そのころから安心安全を意識した有機農業をすすめていらしたと。
加藤
藤田さんは28歳のころサラリーマンをしていて、それでも汚染のすすむ現状をどうにかしなくてはと動き始められたんですね。
藤田
藤本さんと登紀子さんご夫妻の合流で、世間の注目を集めることができました。
加藤さんがやるならと、農家の人たちもひっぱっていってくれました。
服部
何かをすすめるには、世の中に知られている方も必要ですよね。始めのころはご苦労が多かったのではないですか。
藤田
半年は平日は会社勤め、土日に野菜を売るという生活でした。自分たちで配送し、重労働低賃金でしたね。当時はまだ農薬や肥料を使わない技術がそれほど高くなく、一生懸命やるけれど虫や病気にやられてしまう。
運んでくる小松菜がレースのカーテンみたいになっていて、泣きそうになる消費者もいました。
それでも、買ってくれたのです。徐々に増えて行く購入者にグループを作ってもらい、「ステーション」と呼んでいるのですが、運んだものを各々で分けてもらいました。
加藤
レースのカーテンがおいしかったりするのよね(笑)。
会員が増えると農家さんを探さないといけないし、へとへとになっていましたよね。
藤田
そんな大変な時代、登紀子さんの手づくり料理は励みになりました。お金なんかじゃないなとみんなで思ったのです。あと、私たちは農業を知っているようですが、プロの農家の方からすればわかるはずがないと見られていました。
ある有機農家の方に、有機農業をやる根性があるなら口にしてみなさいと、排泄物を発酵させたお酒を見せられました。ため池に発酵させ、ぺろっと口にできる、良い状態のものを畑の肥料にするのです。
藤本さんと私はためらいましたが、登紀子さんはだらしないわねと、クイッと召し上がったんです(笑)。
服部
ほう!すごいですね。
加藤
果実酒が入っていておいしかったんですよ。有機農業をやるとはそういう循環があるのだと、教えてくださったんですね。あの時代にがんばってくれた方がいて、今の有機農業があるのだと思います。
藤田
1977年に西武百貨店で無農薬農産物フェアを開催しました。その時は登紀子さんを始め、永六輔さん、松島トモ子さんといった有名人の方が、売り子として立ってくれました。
登紀子さんはギターの弾き語りもしてくれました。
それまでは有機農産物はこだわりの強い人の特別な物と思われていましたが、マスコミに取り上げられ、多くの方に認知されて、会員数も一挙に増えたのです。
加藤
潜在的に望んでいる方も多かったんだと思います。
藤田
もうひとつエピソードがありまして、農場で働く障害のある子どもたちに、登紀子さんが畑に腰掛けてギターで歌ってくれたことがありました。
みんな目を輝かせて、手をたたいて踊りだす子もいる。全員で歌いだすと、子どもたちは目に涙を浮かべていました。とても感動しました。
加藤
畑や自然に囲まれていると、子どもはのびやかに育ちますよね。
服部
すばらしいですね。食べ物は太陽の恵みで、自然に依存しています。
山藤の食事をいただいていると、山や自然のイメージが湧きます。
現代は旬もわからなくなっていますが、自然に立ち返り、また発展していかないといけませんね。
服部
大地を守る会では特別な基準をお持ちですね。
藤田
はい。有機JASにかかわらず、有機農業という考え方を実践・努力していく人を応援するための独自の基準をつくっています。生産者を育てながら、田んぼや畑を変えて行くのです。
日本では約550もの農薬成分が認められていますが、大地を守る会ではそのうち1割ほどの68を禁止にし、第三者認証機関に依頼して、生産過程から流通まで全てのプロセスにおいて、基準を満たしているかを検査してもらっています。
加藤
卵を売る時、普通は水で洗浄しますが、私たちは家族みんなで空ぶきをしていました。殻には穴が開いていて息をしており、濡らすとふさいでしまうのです。時間と労力がかかり、1000円でも安いねと話したものです。すでに1パック100円の時代でしたが、生きている本当の卵を作るコストとは釣り合いません。
服部
お金を払う意味を考えなくてはなりませんね。
加藤
いつか、お金では売ってあげない時代が来るかもしれません。アメリカの先住民は、お金で土地を買うよと言われた時、断ったそうです。
今持っている大地は神様からいただいているもので、お金に変えられるものじゃないと。
今、私たちはお金を払って食べ物を得ていますが、本当はお金は大地へ返さなくてはなりません。きちんと水源地や農地、生産者にお金が返っているのかを、消費者の方に判断していただきたいです。
服部
なるほど。我々はまた、お金で資源を渡してしまう怖さを知り、手を打たなくてはなりませんね。
加藤
日本は豊かなんですよね。当たり前にずっと自然があるから。守らなければならない危機感がないんだと思います。
藤田
モノがたくさんあれば豊か、競争に勝てば良いという価値観が現代にはありますね。
加藤
南アフリカを訪ねた時に聞いた話ですが、自分たちの風土は豊かで、お腹がすいたら森に食料を採りに行けばよかった。だから他は歌って踊って過ごしていたそうです。
自然と歩調を合わせ、必要な分だけ採る。キリギリスでいいんですね。トルーマンが言い出した先進国は、資源を商品に変え、遠くに運んだり獲得したりする。食べ物は遅れた国からもらえばいい。日本もそのセオリーを踏襲してしまったようですね。
加藤
お訪ねした白菜畑では、一カ所虫が食べるゾーンがあって、不思議と虫が寄るよう工夫されています。他のゾーンは手で虫をとり大変な作業で家族総出で働いたこともあった。そんな有機農家の方ほど息子たちが後を継ぐ場合が多いですね。
服部
有機農業は知恵の凝集で、持続可能性がありますからね。
加藤
今は機械を導入し農薬を使って効率を上げ、子どもは都会に働きに出す、兼業農家が増えています。そして後継ぎがいなくなってしまう。
藤田
キャベツは1個120円は必要ですが、材料がわからない外食や加工食品では安価の外国産のものが使われがちです。グローバリズムの中では農家は食べて行けません。
その現状の中で、若者の半農半Xが増えていますね。新規就農し、勉強して弁護士になった人もいます。
加藤
生き方が変わったことで、トライする志が生まれるようですね。農業人口は減っていますが、潜在的な動きはあるのではと希望を持っています。
服部
すばらしい傾向ですね。食料自給率を上げるためにも、底上げに国策を打ち立てたいです。
加藤
個人の方には、自分の家の自給率を上げてもらって。
服部
そして、行きつけのスーパーに働きかけをしていただきたい。
なぜ有機のもの、地域のものがないの、きちんとお金を払うから作りなさいと。
藤田
地域の農業を守るには、地域の伝統加工技術、販売者、消費者とのつながりが欠かせません。
我々が各所でサポートし、他の産地から受け入れながらも、地産地消をすすめていきたいです。おかげさまで会員数も伸びています。ぜひ多くの方に一度宅配を試してみていただきたいですね。
服部
100万人のキャンドルナイトやフードマイレージなど、新しいことを打ち立てていらっしゃってますが、これからの展望はいかがでしょう。
藤田
生物多様性を食べて守る、「たべまも」キャンペーンを行ったり、シカやイノシシ、サルの獣害への対処などを考えています。
加藤
子どもたち、若い人たちの志を育てていきたいですね。
服部
長年信念を貫いて活動していらして、本当にすごいなと思います。これからもぜひ志をお伝えください。
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