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食育通信対談
No.47
米と魚にこだわる
—伝統と斬新の融合—
村田 宣政
株式会社 にっぱん
代表取締役社長
服部 幸應
服部栄養専門学校
校長/医学博士
古くて新しい立喰い寿司
服部
サラリーマンやOLの街で、立喰い寿司屋『魚がし日本一』を経営されていますが、なぜ立喰いにしようと思われたのでしょうか。
村田
大阪と東京では、寿司の食べ方が違いますよね。大阪ではしっかりと食べますが、東京ではつまむという感覚です。江戸前式を汲み、東京で働く人たちが気楽につまんで食べられたらと。
服部
寿司は関西が発祥で、箱寿司が主流でした。1800年代、職人や単身赴任の侍が多い江戸では手軽さが求められ、ささっと立ち寄って食べるにぎり寿司が流行りました。手で食べて、のれんでしょうゆをふいて帰る習慣があり、のれんの汚いところがおいしいと評判になったそうです。
村田
のれんですか、おもしろいですね。今は逆に、立って食べる店はほとんどありません。
服部
そうですね。だから立喰いは、古いけれど新しい。このコンセプトでいけると考えられたのはいつごろですか。
村田
1985年に立喰い寿司屋を始め、3年ほどたってからです。新橋駅の烏森口に店舗を構え、駅から波のように流れて行くサラリーマンに知っていただくため、毎日道路掃除をしました。まずは認識していただこうと。
服部
良い宣伝になりますね。
村田
ええ。そして、わかりやすさをキーワードにしました。1個65円均一にし、板前さんに聞かなくても、自分で何個食べたからいくらだとわかる。当初券売機を置いていましたが、お客さんにとって面倒なのではずし、頼んだらすぐに出るようスピードを重視しました。すると売り上げが倍に。やがてお客さんにカウンターの端から順番に注文をとるようにしたら、わかりやすかったようで更に売り上げが倍になりました。そこで、いけるなと思いました。
服部
なるほど。新橋駅ともなれば、当初から競合の寿司屋も多かったでしょう。
村田
お寿司屋さんはたくさんありましたね。ただ、業種で見れば同じなのですが、私は「業態論」で考えています。しっかり食べたいならここ、気軽に食べたいならここというように、食べ方で差別化を図る時代ではないでしょうか。立地条件に合わせて、さまざまな業態を展開しています。
服部
築地で仕入れる立喰い寿司屋は珍しく、斬新です。各店舗の管理をきちんとされて、高いレベルを保たれていますね。
村田
良いものを提供しお客様に喜んでいただくためには、目が届くことが大事です。お客様や食材、従業員の変化に対応していく必要があり、東京に50店舗ほどが限度だと考えています。限りある経営と言っていますが、人を育てて良い接客をし、お客様にとれたて、下ろしたて、煮たて、焼きたて、揚げたて、炊きたて、握りたてを召し上がっていただくための方針です。料理はやはり作りたてがおいしいですから。もちろん温度や衛生管理も徹底し、安心・安全な食を提供しています。
服部
なるほど、すばらしいですね。
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食材と水にこだわる
服部
食材にも相当こだわっていると伺いました。
村田
ええ、魚の仕入れや流通管理はもちろん、米の炊き方も試行錯誤しました。いかに米を回転させるか、いかに蒸らすかと。あともったいない話で、お釜に残ってしまうすりごはんですが、1年で60キロも捨てていたのです。対策で釜にネットをかぶせると、米が回転しないので悩みました。
服部
どう解決されたのですか?
村田
ステンレスの円盤を吊り、回転させる装置を作りました。また、米を炊く水にもこだわっています。
服部
水は重要ですね。米の産地に近い水で炊くとおいしくなります。東京、京都、沖縄の水を調べたことがあるのですが、カルシウムイオンがそれぞれ8㎎、2㎎、320㎎とまったく違う。出汁やお茶も水次第で変わります。昆布、かつお出汁や緑茶は日本の軟水でおいしく抽出できますが、コンソメや紅茶は海外の硬度の高い水でないとおいしくできません。日本の食文化を世界に発信する際は水も運んでいます。
村田
ふだん気づきにくいことですが、水で味が変わるんですね。食事バランスガイドのコマの中心が、水であることも納得できます。
服部
私も比べてみて気がつきました。我々は、比べる仕事なのかもしれません。
日本人に合う理想の食
服部
御社のアジフライ定食と銀ダラ定食をいただきました。大きさにも驚きましたが、魚の絞め方も上手ですし、とてもおいしいです。
村田
ありがとうございます。今年の小田原のアジは大きいですね。ふたつ付けなので、ソースも味を変えた方が楽しいだろうとスタッフが考えてくれました。
服部
飽きさせない工夫があるんですね。米と魚は日本人に良く合う食事です。理想的な食は、1965年から1985年の20年間の日本食。米、魚、大豆、野菜、海藻、きのこなどを中心に、欧米の食がバランス良く融合していた頃です。今は米や魚、野菜が少なくなり、肉や油の割合が高く、生活習慣病を招いています。
村田
寿司に野菜を組み入れようと挑戦した時期があります。京都の万願寺唐辛子をのり巻きにしました。
服部
おしゃれですね。若い女性に野菜にぎりは人気のようです。私の学校でも、学食で野菜をあますことなく使ったり、減塩をする挑戦をしています。授業で使わなかった野菜の皮や尾っぽも全て入れて煮込んだ「ベジブロス」(野菜のスープ)に、ベーコンなどを入れてコクを出して、うす味でもおいしくなるよう仕上げています。 野菜のグルタミン酸と、魚や肉のイノシン酸が相乗効果で9.5倍のうま味を出すんです。塩は1/3にして、黒こしょうは荒くつぶしてアクセントにしています。
村田
何気なく組み合わせていましたが、野菜の出汁というものがあるんですね。学食をいただいた時、スープは野菜の滋味を感じました。テーブルには解説があり、読んだ後にことさら味わい深くなりましたよ。
服部
メニューを解釈し示すことも大事で、「知る味」というものもあります。
村田
野菜を食べる大切さや減塩など、わかりやすくして伝えていきたいですね。食に関わる企業として、売り上げでなく食育の姿勢を持つことが大事だと思います。
食育を企業活動に活かす
村田
トップが考えていることを、いかにテーブルで表現するかが大事ですから、社内全員で共通意識を持つために社内報を毎月発行しています。また、月に一回経営者会議を開いています。店長会議では店長しか来ませんが、経営に興味がある人は誰でも参加できるというもの。会議で服部校長から聞いたお話を共有し、今後の企業の目標を作ろうと考えています。
服部
ぜひ、一緒に食育をすすめていきましょう。本日はありがとうございました。
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