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食育通信対談
No.43
今年も食育を!
食育は家族のあり方を正常にし、子どもが社会を生きやすく、
そして地球を守る行動をとれるようにうながすものです。
服部 幸應
服部栄養専門学校 校長/医学博士
(写真左)
昨年をふりかえって
平成23年は、われわれにとって大きな節目となりました。 ご自身や、親族の方、友人、仕事仲間に影響のあった方もたくさんいらっしゃることでしょう。元気に過ごされていると幸いです。今年はいっそう絆を深め、より良い日本、より良い地球を目指していきましょう。
3月11日の震災以来、世界147カ国から援助を受け、また現地では復旧、そして復興にとがんばっておられます。改めて震災の大きな爪あとを感じております。
現在は漁を再開したりと復旧が進んではいますが、沿岸部の県では船は4万から2万5千に減ってしまいました。4月にはカツオ、6月にサンマや、9月にシャケが大量に近くを通っても、捕まえられませんでした。 被災地の扱う魚介加工品は、日本の3割を占めていたということですから、大変な現状です。
日本の食料自給率は、平成22年度カロリーベースで39%でしたが、平成23年度カロリーベースでは20%台に落ちると思われます。
現在、日本に食料を送る国が減っています。人口が増えている国々では、自国をまかなうのに精一杯になるためです。 また、BRICS(経済界で注目されている国:ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)などの経済の台頭により、日本は海外で買い負けを起こしています。 TPPは結論が出ましたが、農業部門などへの悪影響が懸念され、実施されると食料自給率が39%から14%に落ちるのではとも言われています。車やIC機械の一部は利益がアップすると言われますが、全体で30兆円程度で、マイナスが大きくなる見通しです。加盟国でいっせいに関税が引き下げられ、独自性も出しにくい状況になるでしょう。
私が問題だと感じるのは、問題を解決しないままに踏み切ったことです。利益のある部門と農林業のように利益がない部門がよくよく話し合い、プラスからマイナスへ流れるようなシステムを整えなくてはなりませんでした。 食は生きるための、国の土台です。食料は自国で確保しなければならないのです。
世界の3つのキーワード
日本の問題はさまざまにありますが、私はやはり食育をすすめることが重要だと考えています。 現代の世界の共通認識は、食料問題などをふくめ、上記の3つです。経済活動に、日常生活この意識がなければ地球はもちません。 地球の今後を左右するものであり、つきつめていくと、食育になります。
これまでは経済成長ばかりを目指している状況でしたが、地球がなければ元も子もないのです。3つのキーワードの方向へ向かおうと、各国舵をとり始めています。
家族の絆
先に申し上げた3つのキーワードは、じつは子ども時代にしつけられるべきものです。食育はしつけを非常に重んじています。 昨年の漢字には「絆」が選ばれました。我々は本来、家族を重んじる民族であり、人やものを大切にする精神を脈々と受け継いできています。食育は家族のあり方を正常にし、子どもが社会を生きやすく、そして地球を守る行動をとれるようにうながすものです。経済をまわしていく中にも、調和を得意とした日本独自のものを生かさない手はありません。
日本において、親や先生を尊敬する規範意識が薄れています。 韓国の親の尊敬度は84.9%、アメリカは82.2%です。日本は21%で、50%を割り込み大変低い。 親の尊敬度が低い原因のひとつに、親が子どもの前でケンカすることもあります。そして子どもに伴侶の悪口を言う。すると子どもは親をバカにし始めます。
大家族の頃は、自制して子どもにそういった場面は見せないようにしたものでした。 また、先日文部科学省に関連して、子どもはおふくろの味を知っているかを調査しました。肉じゃがやみそ汁が挙げられる一方、レトルトの商品名を挙げる子どももいました。チンして出してくれる、ということです。料理好きなお母さんの子どもは言うことをきき、旦那さんも家に帰る傾向は明らかです。食の乱れから家族がバラバラになりつつあることを懸念しています。日本の家族制度をぜひ見直していきましょう。
家族が元気になると、市町村がよくなる。すると都道府県が良くなり、国が良くなる。 私は最近、食育をやってきてよかったと思い始めています。 食育は、人生において人を、人間というものを生かして行くことを教えてくれる方法論なのです。
医学と音楽と食育
先日、聖路加病院理事長、昨年100歳を迎えられた日野原重明先生と、10年ぶりにお仕事をご一緒しました。 先生は今でも年に150本講演をされ、週に2度、病院で診療をされています。そして本の執筆も精力的にされています。
今年は、「医学と音楽と食育」をテーマに本を出そうという話をしています。日野原先生と、池田先生というオベラ歌手の女性と、私とです。 いかにわれわれの体を守っているものが、食べ物と癒しの音楽か。 音楽を聴く時、われわれの体では何が起きているのか。ストレスを感じると、体は副腎皮質ホルモンを分泌し、免疫力を下げてしまいます。良い音は自律神経を安定させる効果があります。
じゅうじゅう焼ける音、香るバターの香り。ひゅっとたつ食欲。 食べたいという意欲は、そんな「しずる効果」にあります。 また、照明も大事です。蛍光灯の下で食事をすると、赤が紫に見え、食欲を失ってしまう。良い香り、良い色みが、セロトニンという快楽物質を誘い、胃腸がきゅきゅっとなり免疫力も上げるのです。
みなさんのアンチエイジングについて、おもしろい切り口で考えておりますので、出版された折にはぜひご覧ください。
日野原先生の健康の秘訣
日野原先生に教わったことは、達成感が大事だということです。一緒に空港を歩いていると、先生は動く歩道ではなく、横の通路を歩かれていました。私がまだ歩道に乗っている時、先生は「勝った!」と。私は「負けた!」と言いました。 人ばかりではなく、自分に対しても、勝った負けたは大事だとおっしゃいます。負けられないぞという気持ちが生かしてくれたと。
先生は2020年までの予定表をお持ちで、その通りに動きたいそうです。 もうひとつ教わったことは、ひらめきだそうです。美しいものを観て、いいなと思う。いつまでもそういう気持ちを忘れちゃだめだよと、大切にしてこられたのです。私にもひとつ目標ができました。
先生は食事を一日1300キロカロリーで召し上がっているそうです。朝は少なめに、意外なことに、夜は11時から1時頃までかけて召し上がるそうです。娘さんに11時 までにあげなさいと言われ、100歳から心がけているとか。また、寝るときは上向きではなく、うつぶせに寝るから元気とおっしゃっていました。動物はみんなうつぶせになるから元気だと。
元気をいただくということは、非常に重要です。元気をもらって、また人に与えるのです。日野原先生は手を握ってくれました。ぶあつくて温かい手です。先生は老若男女問わずスキンシップされますし、よく握手を求められます。先生のような生き方をしたいと、ご利益をいただきたくなるのでしょう。先生の著書「生き方上手」は120万部のミリオンセラーとなっています。皆さん元気をもらっているのではないでしょうか。
料理のG9
今年の9月、9カ国の著名な料理人が、各国から日本へやってきます。アメリカ、イギリス、スペイン、フランス、イタリア、デンマーク、ブラジル、ペルー、そして日本の9カ国です。われわれは「G9」と呼んでいます。
スペインのサンセバスチャンという美食の街の大学に調理学科ができた昨年、外部理事として9名が選ばれました。そしてそれぞれの国を回ろうと、第一回はスペイン、第二回はペルーに集まりました。そして3カ国めに、フェラン・アドリアが、期待している日本にみんなで行こうよと言ってくれました。 私がホスト役となり、日野原先生にお願いして、長寿のお話、そして音楽と食育を世界に発信して行こう、そして宣言をしようと考えています。スペインでも10項目の宣言をし、ペルーでは「リマ宣言」を行いました。宣言は、先述のエコロジー、サスティナビリティ、バイオダイバシティを中心に地球のこれからの生き方をどうするか、料理においても壮大な観点でとらえていこうというものです。「東京宣言」は何をとりいれていくか、真剣に提案をします。世界にG9の生き方を発信していくつもりです。
今年もいっそう食育をすすめていけるよう、努めてまいります。 まわりとの、日本としての絆を深め、より良い社会を築きましょう。
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